天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集・平成十九年「日の斑」

      川沿ひに滝を目指せる紅葉かな

       笹子啼く実朝政子墓の前

       秋雨や大樹を小鳥棲みわけて

       蟷螂の若きが泳ぐにはたづみ

       秋風の釣果を競ふ魚拓かな

       日の丸の風に散り交ふ銀杏かな

       冬きたる広場に消防音楽隊

       居眠るや電車の床の冬日

       里山の日の斑にひろふ木の実かな

       裏門へまはるしぐれの極楽寺

       冬の海天使の梯子いく筋も

       江ノ電に触るる尾花もありにけり

       水かける水子地蔵も師走かな

       菜の花や潮目たひらぐ相模灘

       押し寄する師走白波和賀江島

       餅つくや八幡宮の幼稚園

       松籟にまぎれて遠し鹿威

       相模野や野焼の炎かぎろへる

       信長の廟所はうつろ冬木立

       足首の失せし鳩くる日向ぼこ

       蚤の市のぼりはためき春たちぬ

       あらたまの富士に白雲巻き立てり

       大寒の寒の極まる極楽寺

       わが影の伸ぶる菜の花畑かな

       菜の花や浮世はるけき不二の峰

       朝戸出の淡き影ふむさくらかな

       発掘の安土城跡春の雪

       開け放つ障子の書斎水仙

       下曽我やここも車座梅見酒

       山門の屋根軽くする初音かな

       うららかや大摂心の禅道場

       椿散って鬱深まりぬ帰源院

       甕出しの老酒に春寿げり

       みなピンク春風に鳴るむすび絵馬

       春風や拍手わきたつイルカショウ

       舎利殿を僧が案内す春うらら

       赤煉瓦駅舎出づれば朝桜

       門前は匠の市や山笑ふ

       うぐひすや水笛を吹くやうに啼く

       石垣は野面積みとふ著莪の花

       海棠の花季に会ふ谷戸の寺

       信号機鳴りて汽車くる桜かな

       断崖の風にあらはる春の鳶

       復元の箱根関所や初つばめ

       葦切の声にいらだつ雀かな

       鎧摺(あぶずり)の渚は白し春の潮

       石仏はさとりすますや著莪の花

       黒猫がくるとささやく立葵

       砂浜の足を引き込む青葉潮

       道の辺に猪の皮干す栗の花

       湿原に雉の声聞く箱根かな

       佇めば直ぐに啼き止む行々子

       仏焔の白きはまれり水芭蕉

       河骨に身をのり出だす木橋かな

       丈低き立子の墓やあやめ咲く

       岩穴に寄せて噴き出づ夏の潮

       白絹の富士まなかひに更衣

       三尊の前にふたつの西瓜かな

       あぢさゐや乳房おもたくたもとほる

       舎利殿の闇覗き込む梅雨の傘

       空の青姫あぢさゐの花にあり

       牡丹咲く透谷美那子出会ひの地

       衆目を集め河豚釣る五月かな

       鶯や羊歯のいのちも盛んなる

       葷酒山門に入るを許さず酔芙蓉

       蝉しぐれ三尊五祖の石庭も

       横須賀や薔薇の向ふに潜水艦

       松籟の風ふところに秋の僧

       飴切るや風鈴市の参道に

       山頂に真白きドーム梅雨明くる

       権現はむくげ花散る祠かな

       岩越えてくる夏潮の白きこと

       藤村のつひの棲み家や風涼し

       「禁煙」の立札にらむ鬼やんま

       黒犬の二頭放てる浜の秋

       みそはぎの根本にひかる谷戸の水

       橋下にオーボエを吹く川の秋

       秋立つと谷戸の竹林さやぎけり

       戦艦の艫(とも)をかすめて都鳥

       炎天の株暴落を目の当たり

       良寛銅像青む夏木立

       夏逝くや長茄子漬に芋焼酎

       スピッツを呼び戻したり秋の潮

 

日の斑