歌集『サーベルと燕』について(2/4)
[表記]ひらがな・カタカナ、漢字の使い方、読み方 ひらがな表記の例を次に。
和歌、短歌はひらがなから出発すべし、という信念が感じられる。
一瞬に金魚すくひの紙やぶれかなしみふかきこどもなりしか
わが町にまだ銭湯のありしころエントツ立ちてけむりのぼりき
観世音は異性なるかやともしびに胸のふくらみうかぶかなしさ
利根がはの中州に立てる白鷺は源九郎義経の裔(すゑ)とおもへる
[リフレインとオノマトペ]名詞や副詞の繰り返し
鼻毛出てる鼻毛切れとむすめ言ふ会ふたびごとにつよく言ふなり
生命保険解約をしてすがすがとわれは居るなり死ぬときは死ぬ
母が耕す鍬に小石のあたるおとかちりかちりと忘れざらめや
ふるさとに節ちやんふたりなつかしむ豆腐屋の節ちやん郷社(がうしや)の節ちやん
ぐちやぐちやとわからなければ家に呼ぶ生命保険の外交員を
足の爪みるみるうちに伸びてきて曲がらぬからだ曲げて爪切る
弟はいつもわれより小さくて小さきままのおとうと思ふ
五十年前の父の死に顔よみがへるおとうとの死に顔にかぶさりゆきて
死にてのち森田童子の歌を聞くかそけきかそけき青春の歌を
[平易な比喩]直喩の「ごとく(し)」が多い。前衛短歌の基調となった難解な暗喩はない。
猫はタマ犬はポチなり箸おきてごちそうさまといふかの如く
五百羅漢にこんな顔ゐたといふやうな丸顔青年が前の席にすわる
お守りのやうに鞄に入れてある茂吉『連山』昭和五年秋
昭和史のくらやみに咲く断腸花永田鉄山伝を読みつぐ
菖蒲街道踏切に待つ三分にうたの一首が漂着したり