日露戦争百年展
勤め先は九段下にあるので、昼休みには靖国神社境内で過ごすことが多い。
今、日露戦争百年展が遊就館で開催されている。入場料は三百円。
底なしの闇を湛へて見つめゐる黒き瞳のをさな児の笑み
戦役のすぐれものなる征露丸いま正露丸わが常備薬
軍隊手牒、金鵄勲章ほこらしく陸軍歩兵伍長の遺品
日本海海戦に勝つ戦時下の発明になる火薬と信管
軍刀の反りまがまがし今にして遺品の中に息づくごとく
精密にして丈夫なるメカニズム魚雷自沈装置光れり
虎の図を千人針に縫いこめし腹巻のこる死者八万余
スサノオノミコトと同じ命(みこと)なる国を守りて逝きし
兵士ら
初代陸軍軍医総監胸はれる写真の箱は征露丸といふ
箱の絵と文字は変はれど変はらざる効き目確かなる正露丸
サーベルの三本交叉せる図柄いのちに換へし金鵄勲章
作戦に失敗すれど人格の高潔なれば軍神となる
物量より情を尊ぶ国柄のあやふかりけむまたの戦争
将軍に命あづけし兵士らの思ひやいかに『坂の上の雲』
乃木将軍を評価するむき今にありさせてはならじまたの戦争
武士道の通用せざる今の世に日露戦争讃美あやふし
兵を思ひ国を思へり軍神の広瀬中佐と橘中佐
大燈籠レリーフに見る旅順口閉塞の廣瀬中佐の部隊
旅順口閉鎖指揮せる軍神をひたに見上ぐる水兵の群
皇室の藩塀として戦死せしかつて朝敵と言はれし殿様
軍医森脚気細菌説を言ひ米麦混食を採用せざりき
腕前を誇りたるらし上等兵射撃訓練標的記録
軍服の右首あたり裂けて無し二十五ミリの機関砲弾
唐辛子二つ合はせたやうな唇(くち) 電車座席のわれは
見上ぐる