天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

イソヒヨドリ

   にごりたる暗き水面に浮かびくるうろこ付けたる生き物の口
   鍵かけて電話はづして書き写す字画正しき般若心経
   朝戸出のをみなを横にぴくぴくす心臓付近の胸の筋肉
   面構へライオンに似る野良猫がベンチの下の日陰に眠る
   帆柱の綱さんざめく揚陸のヨットならべる潮風の浜
   釣り糸を垂るる水面に降下せる鳶はむなしく足垂れて翔つ
   つかの間の梅雨の晴れ間を海岸のベンチに寝ねて潮風を聞く
   釣り人の食べ物狙ふ鳶の空うしほとどろく岩の洞穴
   連れ飛べる鳶、隼の空あれどイソヒヨドリは断崖に棲む
   断崖の草叢に棲み高啼けるイソヒヨドリの家族思へり
   釣り上げし鰯ふるへてきらめけり鳶の見下ろす岩場のなぎさ
   釣り人が置き去りにせし小魚を求めて鳶は断崖を出づ
   ごきげんを伺ふごとく舟虫が岩の狭間を這ひ出でにけり
   タクシーも昼時なれば木の陰に車を止めて箸使ふなり
   おほいなる碑立てる江ノ島の歴史を知らず食をたのしむ
   暑ければ島を出できて駅に買ふ宇治金時のアイスキャンディー
   孫のため金平糖をつまみだす手ははだらなす老人の染み
   金平糖つまみ出だせる手の甲の老人斑点孫は気にせず


         梅雨晴れの潮風清し胸そらす
         白き帆のヨットたむろす島の海
         青潮のしたたり白き礁かな
         緑陰にタクシーねむる島の昼