天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

早春賦―片瀬・腰越―

片瀬漁港にて

 片瀬漁港では、漁船で獲れた鰯、穴子、烏賊 などを朝市で売っている。自動車で乗り付けた人たちが並んで順番に買っていく。漁港内の水面には、海鵜たちがブイに止まって羽根を広げたり、水に潜って魚を獲ったりしている。その上空を鳶の群が飛んで、時折、海鵜を狙って降下する。
 腰越漁港は、今日は店が出ておらず静かであった。常立寺の境内では、白梅紅梅が咲き、栴檀の実が冬木に群れて熟れていた。満福寺、龍口寺などにも寄った。


     一月の赤き手が割く穴子かな
     寒明けの朝(あした)魚網をつくろへる
     義経公手洗の井戸寒の水
     腰越の寒に干したるカマスかな


  いそがひの片瀬漁港の鵜の鳥は朝日背にして羽根ひろげたり
  水面にうかび出でたる鵜を狙ひ鳶降下せり水しぶき立つ
  鵜の取りし魚狙ひて鳶降下足の鉤爪水をひっかく
  黄の色の枯葉くはへて鴉翔つこゆるぎ神社の朝の境内
  媼らがつどふ憩いの家ありて水仙かをる小動(こゆるぎ)岬
  巣を出でし鳶が見下す正月の片瀬江ノ島こゆるぎ岬
  櫂ひとつサーフボードに立ちて漕ぐ朝日まぶしき小動の海
  一月の風に吹かるる墓石に「慈愛」「面影」「やすらぎ」はあり
  山の上の冬木の公孫樹ひと本の枝にたれたる太き垂乳根
  江ノ電が近づくらしも踏切の鉦鳴りはじむ門前の階
  勤行のこゑのもれくる境内に延壽の鐘をつく龍口寺
  ひさかたの金色光をまとひたる釈迦像のあり白きスツーパ
  木洩れ陽のたゆたふ萬人歯骨塚明治十四年に立てしと記す
  白梅のしだるる横に紅梅は空に向ひて誇らかに咲く
  家古りし旅館の庭に亭々と青松立てり小鳥つどへる