天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

慣用表現の短歌への導入

日常会話や散文でよく使われる語法は、短歌に入れることは禁忌と
されてきた。それをこともなく破ったのが塚本邦雄であった。
意識的に多用したのが小池光である。まず、塚本の例をひとつ挙げる。

  騎兵らがかつて目もくれずに過ぎた薔薇苑でその遺児ら密会
                     『水葬物語』


小池の例は枚挙にいとまがないほどあり、彼の歌の一大特徴といってよい。二例だけ示す。

  わが少女、神を讃へてややもすれば常軌を外れてゆく気配あり
                     『日々の思い出』
  水中より抜きとられたる魚(うを)ひとつ桐のまないたを
  まさしく濡らす            『滴滴集』