天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(10/21)

 第三の技法は、表記。複雑な漢字やその組み合わせ、当て字により読者に考えさせ納得させることが可能である。逆に、漢字で書くと一見して意が通じ、簡単に読み過ぎるところを、わざわざ仮名文字で表記すると、やはり立ち止まらせる効果がでる。塚本の歌から。
  朝酌(あさくみ)・秋鹿(あいか)・美談(みたみ)・楯縫(たてぬひ)、出雲にて 

  水飲めば新珠のあぢはひ             『汨羅變』


  血統書附紀州犬牡進呈葵荘十二階四夷安代    『風雅黙示録』
                    
  刹那の人生と言へれば水無月に流連(ゐつづけ)といふふりがなあはれ
                          『黄金律』
  妻は鶴に還らざれどもゆふがほの枯れ枯れにしてうすずみの網
                        『されど遊星』
  剃刀にたまゆらの虹 知命とは致命とどの邊ですれちがふ
                           『献身』

小池も頻繁にこの方法を使うが、次に二例だけあげる。
  石渓心月あり椿庭海壽あり霊源彗桃ありすべて室町の高僧
                       『滴滴集』
  かいらんばんことりと落ちし音きこゆ かたみに知らぬ誰か入れたり
                        『静物

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塚本邦雄『黄金律』