天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

お墓の中の携帯電話

 あるともなき朝の風に狗尾(えのころ)草が、鉄路の傍でゆれて
いる。虫のすだく声が地に染み込むように聞こえる。
電車を待ちながら、原民喜の小説「美しき死の岸に」を読んでいる。
全体が散文詩のような作品だが、「秋」より。
  窓の下にすきとおった靄が、葉の散りしだいた並木はうすれ、
  固い沓の音がしていくたりも通りすぎてゆく乙女の姿が、
  しずかにねむり入ったおんみの窓の下に。

湘南ライナーが到着した。席に座ってしずかに目を瞑り、昨夜の
ドラマから作った歌を反芻する。
   先に逝きし娘にメールする毎日はお墓の中の携帯電話


今日から9月、靖国神社拝殿入り口の掲示板の内容が替わっていた。
やはり月替りらしい。
明治天皇御製:
   世とともに語りつたへよ国のため命をすてし人のいさをを

これに続けて、昭和二十年六月に沖縄で戦死した陸軍大尉の
「愛児への手紙」が掲載されている。満州にいる時に東京の家族宛に
出したものらしい。
 お父さんが居れば多摩川へでも行って泳ぎを教へてあげるのですが、
 満州にゐてはそれもできず残念ですね、
と文中にある。


   遺族会の寄贈に建ちし母の像強くきびしくやさしかりしと
   白鳩と土鳩交はる境内に散りてかなしき白鳩の羽根
   白鳩と土鳩交はる境内に斑(ブチ)の鳩生るおそろしきかも