天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

八景

祐ちゃんのレリーフ

 海側からの秋の日差しを左に受け長者ヶ崎から一色海岸、芝崎海岸、真名瀬漁港、森戸海岸へと海岸沿いに歩いた。長者ヶ崎の夕照は三浦半島八景のひとつ、森戸の夕照は、かながわの景勝五十選のひとつ、とこのあたりの海岸から相模湾越しに見る夕景の伊豆の山々、富士、丹沢山塊はすばらしい。ところで、名勝地には何々八景といわれる景勝があるが、この考え方は十五世紀明代の中国から入ってきたという。次の景色を基本とする。
夜雨: 水辺の夜の雨、晩鐘: 山寺の晩鐘、帰帆: 港に帰る漁船、晴嵐: 朝もやに煙る松林、秋月: 水辺に映える秋の月、落雁: 干潟に降り立つ雁の群、夕照: 夕日に照らされた遠くの山、暮雪: 夕暮の雪景色。例えば、平成十三年十一月に選定された三浦半島八景とは、次のような景勝地である。大塔(鎌倉宮)の夜雨、神武寺の晩鐘、灯台(燈明台)の帰帆、猿島晴嵐、大仏の秋月、城ヶ島落雁、長者ヶ崎の夕照、建長寺の暮雪。


         胴長の犬胴震ひせり秋の海

  南方(みんなみ)の台風の余波受けたれば海岸線に濁り染み出づ
  うなさかのはたてにかすむ不二の峰初冠雪をまちて黒ずむ
  満潮に道閉ざされてゆきまどふ長者ヶ崎の断崖の下
  満潮に道閉ざされて帰れざり長者ヶ崎にあそぶ秋の日
  まなかひに白波たてるうなさかをヨット離(さか)れり不二に向かひて
  大山も不二もかすめる秋の日を長者ヶ崎の浜辺にあそぶ
  まはだかを秋の日差しにさらし寝る葉山御用邸前の浜辺に
  釣糸の先にきらきら光るあり一色海岸突堤の先
  ボックスに警官をらず巡回の時にあるらし一色の浜
  御用邸松の林に帰るらし浜辺の空の一羽白鷺
  鳶舞ひて急降下せる砂浜にもの食ふ母子のパラソルはあり
  うすぐらき海中好み生くるらし潮間帯のアンドンクラゲ
  レリーフ灯台建ててしのぶなり狂った果実たちの先達
  白波の洗ふ岩礁に火ともせり裕ちゃん灯台森戸の夕照
  頼朝の後を追ひ来し種子なれば飛柏槙はここにふりたり
  いっせいにヨット押し出す学生の森戸海岸天高かりき
  大学のヨット部あまたたむろせり森戸の浜に白帆並べて
  砂浜を歩き来たれば秋の日の汗に匂へる墨染めの髪