天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

相模川

能「石橋」の像

 相模線の宮山駅で下りると道路の向かいに寒川乃お湯屋という銭湯がある。駐車場は昼間から満杯に近い。もっとも今日は天皇誕生日で祝日。もちろん湯に入りにきたわけでなく、相模川を見に行く。特別のものがあるわけではない。川の向こうに大山の峰とその左奥に富士山がみえるだけである。葦原の川辺と遠くの山並み、それだけ。冬の川風は身を切る。寒川神社まで歩く。
 寒川神社の手水舎の柱には明治天皇の御製が月替わりでかかるが、十二月は「天」の題で次のお歌があった。
   あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな


        銭湯に車ならべる冬至かな
        二度三度からだあたたむ冬至の湯
        水上に波さかのぼる冬の川
        枯葦にわが朝影や相模川
        冬の川役目終へたる杭の列
        大山や水面あをめる冬の川
        葦枯れて水面青めり相模川
        川の面に垂れてつのぐむ枯木かな
        煙突のけむりに隠れ雪の富士
        寒鯉や泥にけむれる川の底
        神門の恵方八犬ねぶたかな
        山茶花や狂ひて鬼になる人も


   水あをみ波さかのぼる相模川枯木の枝にひよどりが啼く
   あさみどり空に朝日のかがよひて枯葦原に長き人影
   たはたはと四羽はばたく朝空に翼かがやく冬の白鷺
   川の面に垂るる枯木のつのぐめり相模八景宮山の富士
   蕭条と高き梢を風わたる山茶花赤き楠の木の森