蕪村俳句(3)
蕪村の俳句にも難解な作品が多い。時代特有の文化のために現代では理解できなくなっている事情を考慮してもなお分らないのは、あながち読者の無知のせいばかりとは言えまい。『蕪村句集』冬之部から例をとってみよう。
時雨るるや蓑買ふ人のまことより
*「まことより」が意味不明。藤原定家の歌「偽りの
なき世なりけり神無月たが誠よりしぐれそめけむ」
を本歌としているというが。蓑買ふ人の誠意が通じて
時雨れた?面白くもなんともない。初冬お旅に備えて
蓑を買う芭蕉の姿を詠んだというが。
居眠りて我にかくれん冬ごもり
*居眠りして自分自身の中に閉じこもってしまおう、
冬ごもりとして、という意味か。全句集の解説
では、眠りの世界に入り自分自身からも隠れよう
とする冬籠りの心境、となっている。
冬ごもり壁をこころの山に倚(よる)
*全句集の解説によると、壁を心の中で山と観じ、
身をもたせ冬ごもりをすることだ、とある。
芭蕉の句「冬ごもりまた寄り添はんこの柱」は
大変わかりやすいのだが。
息(いき)杖(づゑ)に石の火を見る枯野哉
*息杖は、駕籠などの重荷をかつぐ者の杖のことだと
わかっても、石の火がわからない。息杖の先が鉄に
でもなっていて、それが枯野の石に当たって火が
飛んだ、とでも言うのだろうか。
どうやらそうらしい。
漁(ぎよ)家(か)寒し酒に頭(かしら)の雪を焼(たく)
*全句集の解説によると、酒を温めようと老漁師が
白髪頭を傾けて火をおこす様子、を詠んだというが、
とても無理だ。「雪の頭が酒を焼(たく)」ならまだしも。