言葉の選択
「古志」七月号の長谷川櫂主宰巻頭作品「蘭鋳」より、さすがと思う二句を引く。
揺らめいて水は金魚となりにけり
*水を満たした鉢に金魚を放った瞬間であろうか、
あるいは、今までじっと動かなかった金魚が突如
身動きしたため作者が気づいた瞬間であろうか?
読者は実感として理解できる。
蘭鋳や黒き花びらさながらに
*「さながらに」がうまい。直喩表現としては、
「のように」「のごとく」「に似て」と言った言い方が
あるが、深みが出てこない。言葉の選択の重要性がよく
わかる。
この号に長谷川主宰選で載ったわが作品五句を次にあげておく。
掲示せる遺書にさしぐむ櫻かな
暁の春雷に夢破れけり
遠くから見るこそよけれ山櫻
水音の谷戸はまぶしや金鳳花
合格のお礼の絵馬や梅若葉
ついでに、「藍生」紅藍集・連載自選作品から。一年間の連載であったが、今回が最後である。実は、わが連載作品は、勤務先がある千代田区九段周辺の四季をテーマとしたものである。
若葉
お御籤を櫻にむすぶ同期会
夜桜の吹雪の中や能舞台
腰を抱く続きを見たし春の夢
さまざまの花の姿やさくら草
若葉萌ゆ地酒も売れる陶器市