天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

佐太郎の「道」のうた

 「道のうた」の評論を書き終わったが、興味はつきず、まだ調べている。岩波文庫の『佐藤佐太郎歌集』から道に関わる歌をチェックすると、随分多い。この歌集は、全歌集から精選した作品を抄録したものなので、全体では相当な数にのぼると思われる。道の中では、鋪道が頻繁にでてくる。多様な道を以下に抜き出しておく。


  さまざまの鳥の標本を鋪道より吾は見たれば生ける鳥も居り
  はふり路の帰路(かへりぢ)にして詣で来し寺より見ゆる
  荒れたる海は


  地下道を人群れてゆくおのおのは夕の雪にぬれし人の香
  女一人罪にしづみてゆく経路その断片を折々聞けり
  風のなき切羽(きりは)をいでて寒き風音たててふく広き坑道
  さかひなく水湛へたる田のつづき藻のなびきゐるながれは水路
  大き山音たえてをりて中道の上より下にただになだるる
  海(わた)なかによこたふみれば白砂は光のごとし海の中道
  革細工売る露店ありて陰湿のにほひただよふ石だたみ道
  傾斜路の轍のあとも井戸桁の摩滅のあとも石の親しさ
  ひといきにビールのむとき食道の衝撃にも老いて弱くなりたり
  高架路の下の広場にむるる鳩人に馴れ灯に馴れて宵いまだ寝ず
  貯水湖の水涸れをりて古道(ふるみち)も木の切株もあらはに白し
  あはれみて吾の伴ふ幼子は渚の路に菜の花をつむ
  木々古りし三輪山の天寒くしてゆく山のべの道あたたかし
  椿など覆ふ岬みち葉をもれてまれに燈台のひばなかがやく
  神島の女坂より雲と濤かすけき伊良湖水道は見ゆ
  海のべの木草かがやき晴れながら雨ふることのあり熊野路は
  夕ちかき蛇崩道(じやくづれみち)をかへり来るまかげして
  人は壮年ならず


  杖ひきて日々遊歩道ゆきし人このごろ見ずと何時人は言ふ
  篁のうちに音なく動く葉のありて風道の見ゆるしづけさ