天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

故郷を詠む(4/9)

  故郷のもとあらの小萩いたづらに見る人なしに咲きか散るらむ      
                      新勅撰集・源実朝
*もとあら: 根元や幹の方に葉や枝がまばらである様子。いたづらに: 存在・動作などが無益で役に立たない様子。

  霞しくわがふる郷よさらぬだにむかしの跡は見ゆるものかは    
                     新勅撰集・藤原隆衡
  ふるさとを焼野が原とかへりみて末もけぶりの波路をぞゆく    
                     平家物語・平 経盛
*「住みなれた館を焼野の原としてその煙をふり返り見つつ、いつ帰るとも知れぬ煙にとざされた海の旅路を行くことであるよ。」

  ふるさとも恋しくもなし旅の空都もつひのすみかならねば
                     平家物語・平 重衡
  月を見ばおなじ空ともなぐさまでなど故郷の恋しかるらむ       
                     続古今集・藤原光俊
*「月を眺めれば、同じ一つの空だと心は慰まずに、どうしてこう故郷が恋しいのだろうか。」

  ふる郷は恋しくとてもみよしのの花の盛りをいかがみすてむ       
                      李花集・宗良親王
  水無瀬山我がふる里はあれぬらむまがきは野らと人も通はで    
                      増鏡・後鳥羽天皇
*「水無瀬山の我が故郷は、すっかり荒れてしまったことだろう。竹や柴などで目を粗く編んだ垣根は野となって、人も通うこともないのであろう。」

  ふるさとを別路におふるくずの葉の秋はくれどもかへる世もなし     
                      増鏡・後鳥羽天皇

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水無瀬山 (WEBから)