天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

暮の大磯

大磯から見る富士

 歳晩の大磯の浜はまことに静か。沖にあまたの釣舟を見れど、繰返し寄せる波の音ばかり。間近に雪の白絹を纏った富士を見る。


      大磯の沖の釣舟年暮るる
      逆光の朝日をかへす冬の海
      奥見えぬ横穴古墳枯れ紅葉


  波頭白くくだくる渚辺に何を探せる白かもめ鳥
  はろばろと歩みきたりし渚辺のわが足跡を白波が消す
  波音の尽きざる磯に消ゆるべく人の足跡鳥の足跡
  縄張りを二羽の目白があらそへり県立大磯城山公園
  ひさかたの朝の光をまぶしめば富士山頂に雪けむり立つ
  つつましく弁当開きささめけるをみなご二人まなかひの富士
  色あせし紅葉ちりしく山の端に暗き口開く横穴古墳
  来む年の多難思ひて大磯の忘れられたる銅像を訪ふ
  啼きわたる笹子の声の鋭きに頬ゆるめたる大磯の主
  菰巻ける松の並木の大磯に年を見送るひとつ銅像
  空缶をバスに残して立ち去りし女憎めず病みてゐるらし
  大磯の浜に出でたる岩を打つかつかつと打つ化石掘るらし
  禿頭の端に残れる黒髪をなでつけたればバーコードなる