あやめとかきつばた
あやめは、陸生で花壇に植えて栽培。杜若(かきつばた)は、湿地に野生している。紛らわしいことに菖蒲という湿地に生えるサトイモ科の多年草があり、古くは「あやめ」とも「あやめぐさ」とも言った。万葉集にも、数えてみれば十二首ある。卯の花と同様にほととぎすと番えて詠まれることが多い。
ほととぎす待てど来鳴かずあやめぐさ玉に貫く日をいまだ遠みか
大伴家持
ほととぎす鳴くやさつきのあやめ草あやめも知らぬこひもするかな
古今集・読人しらず
杜若丹つらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆きつるかも
万葉集・作者未詳
あやめ草脚に結ばん草鞋の緒 芭蕉
杜若語るも旅のひとつ哉 芭蕉
あやめ、杜若、菖蒲の三種類を詠んだ現代歌人に、塚本邦雄がいる。次の三首である。一、二首目は『水銀伝説』に、三首目は『感幻楽』に出ている。
花束抱きて刻刻のわれみにくきにその束の芯死にたるあやめ
あざやかに夜の杜若マルキ・ド・サド選集は父にうばはれしかば
菖蒲一束わがしかばねをおほはむに恥づ人殺し得ざりしこの子
塚本のこれら区別が抒情にどのような効果を発揮しているか、それぞれの歌を鑑賞する際のポイントになるはず。なかなか挑戦的なテーマではないか。
こう見てくると、杜若と菖蒲(=あやめ草)は、由緒をたどれるが、現在「あやめ」と呼んでいる植物が、いつ日本に定着したのかが分からない。おまけにアイリスという洋名もある。ただ、アイリスはアヤメ科アヤメ属の植物の総称、とのことであるから、上のような区別をしたくない時には、これを使えばよい。