天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

腰越

 江ノ島片瀬海岸に続く腰越は、源義経が兄頼朝から鎌倉入りを断られ、虚しく引き返したところであり、平泉で頼朝軍と戦い自刃後、首を運ばれてここで首実験されたところであるが、現在ではしらす漁で知られている。乗り合いの釣舟も出ている。漁師は兼業で地魚料理の店をやっている。しらす料理を食べるため列ができるほど人気の店もある。漁港の突堤で釣りをしている人を見かけるが、魚を吊り上げている場面に出会ったことがない。
漁港の背後には、小動(こゆるぎ)神社があり、古事記の世界の神々を祀る。例えば、神代七代中の第六代にあたる淤母陀流神(おもだるのかみ)の小さな社が鬱蒼とした木陰に隠れている。にいにい蝉が鳴きはじめていた。


      土牢の闇にひびかふ蝉の声


  突堤に釣糸垂るる日曜日何も釣れざる時を過ごせり
  釣り終へし釣舟泊まる腰越の港しづけく波のたゆたふ
  霧晴れし腰越漁港の上空を蝉追ひかけてかもめ鳥とぶ
  こゆるぎの岬木立に祀らるる諸願成就の淤母陀流神
  しらす干すこゆるぎの浜海霧にかすみて消ゆる三浦半島
  自動車は路面電車をよけて待つ鯖鯵干せる腰越通り
  店先に麦藁帽子積み上げてすばな通りは梅雨明けを待つ