天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

撫子

なでしこ

 秋の七草の一つ。よって秋の季語だが、花は七月から咲き始める。河原に多く見かけるのでカワラナデシコともいう。わが国に古くからある花だが、そうは思えず見かけは随分西洋風である。この季語の傍題に、大和撫子、河原撫子、常夏などがある。


      かさねとは八重撫子の名成るべし   曾良
      撫子や波出直してやや強く      香西照雄
      浜撫子恋知り頃の海女にして     臼田亜浪

曾良の句は、芭蕉の「奥の細道」に出てきて有名。


万葉集では、大伴家持の歌がよい。

  秋さらば見つつ偲べと妹が植ゑし屋前(には)の石竹花
  (なでしこ)咲きにけるかも
  一本のなでしこ植ゑしその心誰に見せむと思ひそめけむ
  石竹花が花見るごとに少女(をとめ)らがゑ笑まひのにほひ
  思ほゆるかも

近代の短歌では、次の三首。晶子の歌は、あられもないが。

  下野のなすのの原の草むらにおほつかなしや撫子の花
                       正岡子規
  水の隅うすくれなゐは河郎の夜床にすらむなでしこの花
                       与謝野晶子
  はしだての月夜に渡りわが折りし磯松が根のなでしこの花
                       川田 順