風の詩情(8)
風の吹く方角(風向き)によって名付けられた風も多い。東風(こち)、西、南風(みなみ)、黒南風(くろはえ)、白南風(しらはえ)、北風、朝北、山せの風、日方(ひかた)、あなし 等々。なお、「こちのかへし」は、西風を意味する。
*東風(こち): 東の方から吹いてくる風。春の季語。
「あゆの風」とも。
東風(あゆ)をいたみ奈呉の浦廻に寄する波いや千重しきに
恋ひわたるかも 大伴家持『万葉集』
東風吹かばにほひをこせよ梅花主なしとて春を忘るな
菅原道真『拾遺和歌集』
東風吹くや耳あらはるるうなゐ髪 杉田久女
*西風: (1)西方から吹いてくる風。にしかぜ。
(2)寂しい秋の風。秋風。
松の色は西ふく風やそめつらむ海のみどりを初入(はつしほ)にして
菅原道真『続古今集』
やまとかも海にあらしの西吹かばいづれの浦に御舟つながむ
三統理平『新古今集』
にほひきや都の花はあづまぢにこちのかへしの風につけしは
源 兼俊母『後拾遺集』
*南風: 南から吹く風。特に、夏季に南から吹く風。
みなみかぜ。はえ。夏の季語。
夏はきぬ相模の海の南風(なんぷう)にわが瞳燃えゆわが
こころ燃ゆ 吉井 勇
時じくの南風(みなみ)となりてウヰンドの硝子あからさまに
夜の花々 田谷 鋭
南風の中ゆつくり浜へ能登老婆 桂信子
海の南風入れて夕餉の卓大き 岡本差知子
*北風: 北方から吹いてくる冷たい風。きた。冬の季語。
幼子の手をひきてやる冷たくて北風のなかはやくかへらむ
中野菊夫
北風や石を敷きたるロシア町 虚子
田を移るたびに北風つよき谷 飯田龍太