天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ある日の小田原城

小田原城本丸跡にて

 城郭の内にある報徳二宮神社では、生れたばかりの子供を籠に入れて御祓いにくる夫婦や祖父母から孫までが並んで写真に納まる三世代、神殿で祝言を挙げる一族など秋らしい光景が見られた。城壁や道路のところどころで工事が続いていた。

      石垣の反り美しき秋薊
      柏槙の肌いたいたし花芒
      城郭の広きを思ふ鵙の声
      秋風や濠に真紅の「まなびばし」
      にほひ立つ二の丸跡の金木犀
      自動車の屋根に猫寝る秋日差し


  小田原城本丸跡の猿の檻生れしばかりの子猿あそべる
  霊長目オナガザル科のニホンザル本丸跡の檻に飼はるる
  蜘蛛の囲の真中に主動かざり手足の数の足らざるを知る
  蜘蛛の囲に虫の亡骸ちらばれり微動だにせず次の餌を待つ
  シャッターを巫女にたのみて孫を抱く報徳二宮神社境内
  鯉はねて水面に波紋ひろがれり鴨の浮き寝の枯れ蓮の濠
  江戸の世の工法になる土壁のひときは白きあかがねの門
  幹は裂け紅葉着けたる桜木の年月思ふ登城の道に
  もののふの霊に出会ひて鵙が啼く二の丸跡の松の梢に
  血圧の高き日なるや楠の木の梢見上げてくらくらとせり
  姿よき大山遠くかすみたり小田原城址北門を出づ
  ひとときも手放さざらむケータイを見つつしのぼる駅の階段