天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(8/11)

  栗駒の高原の木々若葉せり雪雲のこるみちのくの空

  原生のくろまつ立てる森蔭に蝉の声きく真鶴岬

  この先の幾年を生く山頂の楠の若葉が風に笑へり

  風かをる若葉の梢(うれ)に美しき声にうたへるあの鳥は何

  鬱深き梅の青葉の下蔭に藤村夫妻の墓ならびたり

  大杉の息吹なりけり方丈の畳座敷を吹きぬくる風

  紫陽花の色のあせたる参道に夏ふかみゆく大杉の森

  毬栗(いがぐり)をあまたつけたる一木(いちぼく)が畑の隅にながらへてをり

  そのかみの馬入の渡し碑はあれどタブの木立は見る影もなし

  あたたかき日差好めるエゴ、サクラ、コナラ、クヌギは陽樹なりけり

  日の弱き森にも生うるクス、アオキ、シイ、ブナ、カシは陰樹なりけり

  葉の落ちて実のあらはなる柿の木に大き目玉の風船が垂る

  建立は明治二拾三年の石の鳥居に銀杏ちるなり

  拘置所を囲める塀に沿ひてゆく春来りなば桜咲く道

  大木にからみ巻きつき這ひのぼる太き木蔦をうらやむ我は

  遠目には冬枯れの村下曽我は近づくほどに梅咲けり見ゆ

  目白きてデジタルカメラの視野に入る熱海桜の爛漫の中

  禰宜(ねぎ)たちの眠りをやぶる大おんじやう大き銀杏はいのち終へたり

  はくれんの花ちる池の底ひには濁れる色のうごめくが見ゆ

  楷の木のひとつほそぼそ立てりけり小柴昌俊受賞記念樹

  ノーベル賞受賞記念の楷の木はいまだ幼く支へられたり

  瓦置く竹林の土もちあげて今朝力あり竹の子の群

  ちる花の桜の下に並べたりこけしや根付、グラスのたぐひ

  幹に彫りし落書きの字も年ふりてなんじやもんじやの木は太りたり

  千年のいのち受け継ぐ遺伝子の新芽出でたりいちやう根株に

  無患子(むくろじ)の小花ちらせる蜂群の羽音すさまじブブゼラを吹く

  葉桜の根方に置かれ主(あるじ)待つあぢさゐ色のハンカチひとつ

  陰嚢(いんなう)のごときが垂れて虫を待つうつぼかづらの赤き葉脈

  夏去りて風立つ朝は無患子(むくろじ)の青き実がちる里山の道

  鳥兜あそこに咲くと声ひそめ教へてくれし谷戸の里人

  おほかたは地面におちて腐るらし細き枝になる大き榠樝(くわりん)は

 

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楷の木