天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

清左衛門地獄

中島にある厳島神社

 以前に一度行ったことはあるのだが、産経新聞に関東の湧水の名所として紹介されていたので、また行ってみた。大雄山線富士フィルム前駅で下車すれば、矢印の案内板がところどころにあるので迷うことはない。実は、環境省が全国から選んだ平成の名水百選のひとつで、神奈川県では唯一のものというから驚く。清左衛門地獄池の由来は、昔、昔、この地域が水不足で農地が荒れていたとき、清左衛門という人が水源をさがしにここまで来ると、乗っていた馬もろとも地中深く落ちこんでしまった。その時、そこから勢いよく水が湧き出し、村人は飲み水、水田の用水に困らなくなった。それからは土地の人が「清左衛門」、「清左衛門」と呼びかけるといっそう勢いよく水が湧き出してきたという。
 池のほとりに観池山弁財寺の社があるが、額のしたに次のように歌が書かれている。

        べんざいぢ
        ふかきめぐみは
        わくいずみ
        みだのりやくに
        おいけかがやく


 仮名遣いが変。旧仮名なら、「べんざいじ」「いづみ」とすべき。まあ、そんなことはよろしいか。


      湧く水の池に呆たる真鯉かな
      賜物の湧水として瀧かかる
      蝶がくる瀧のしぶきの草はらに


  石組を流れ落ちたる滝水をごぼごぼごぼと吸ふ太き管
  「幸運の瀧」と名づけて湧水の山を称ふる麓の寺は
  幸運の瀧を見上げてわが立てば紋白蝶が足元にくる
  ゴミ収集トラックとまり出でゆけり朱き鳥居の下の捨て場に
  底知れぬ暗き洞より湧き出づる清左衛門地獄の水のゆたかさ
  清左衛門地獄の池にむれ棲むは青み帯びたる真鯉なりけり
  真鯉みな恍惚として浮びたり人影を見ぬ湧水の池
  金網にさへぎられたる池なれば水に触れえずその冷たさに
  それぞれに書き分けてあり観池山、弁財寺の文字ふたつ石柱
  水神をまつれる石も見つけたり紫陽花咲ける池のめぐりに
  境内にただ水音を聞くばかり痴漢注意の看板は見ゆ
  うすぐらき坂道に会ふ熟女らはわかやぐ声に挨拶をせり
  坂道にわが出会ひたる鶺鴒のむれに黄色のものもまじれり
  かしましき燕の声の参道を汗かきのぼる大雄山
  『新編相模風土記』にもあり飯沢の南足柄神社の由来