天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鮎釣りの川

相模川にて

 この時期、厚木近くの相模川でも鮎釣りの姿が目立つ。鮎はアユ科の淡水魚で、香魚、年魚などともいう。年魚とは、一年で生を終えるところからきている。鮎は万葉集にも詠まれている。


  春されば吾家(わぎへ)の里の川門(かはと)には
  鮎児(あゆこ)さ走る君待ちがてに
                万葉集・作者未詳
                   
  松浦川(まつらがわ)川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳
  の裾濡れぬ         万葉集・作者未詳


  幼き日釣りにし鮎のうつり香をいまてのひらに思ひ出でつも
                    若山牧水
  山がはの岸の浅処(あさど)に鮎の子が群れつつをるはしばし
  安けし               斎藤茂吉
                    
  簗にひしめく若鮎数百かつて「わがおほきみに召されたる」は
  誰か                塚本邦雄
                    
  愛(かな)し、万の稚鮎のさかのぼる早瀬をわたり静脈の透く
                    前登志夫


      三往復囮の鮎を差し替へて
      相模川鮎釣る人の増えてをり
      釣れざるもたのしかるらし鮎の川


  自転車の前後にひとりづつ乗せて一人手を引くみたり児の母
  鉄橋を電車通ればとどろきて早瀬の音を押しやりにけり
  昼前の釣果いかにと大き鳶鮎釣る人の空をめぐりぬ
  昼近き梅雨の晴れ間の相模川鰍の声に耳を疑ふ
  間近くの早瀬の音に交はりて遠く聞こゆる鰍の声は
  ほろほろと哀しき声に鳴くものは朝風このむ鰍なるらし
  きよらなる鰍の声をはこび来ぬ鮎つり人の川の朝風
  近づきて見れども見えず小魚は川の浅瀬の宙にはねたり
  次々に釣人きたり川に入るおのもおのもの長き釣竿
  相模川早瀬に浸り竿ふれる鮎釣人はおほく老人
  見渡せば川の上流下流にも釣人立てり鮎を釣らむと
  友釣と毛鉤を使ふ釣りとありいづれも長き竿伸ばしたり
  中島の青草原を飛びたてる大き白鷺S字をなせり
  言ふことをきかなくなりし囮鮎岩陰に入り竿たはめたり
  相模川沿ひの道路に七夕の歌を流せりゴミ収集車
  川原の石に座りて釣を見る尻の痛さに耐へがてなくに
  白鷺のごとく佇み目をこらす川の浅瀬にくる小魚に
  水際を川下にゆく白鷺の姿を撮りぬわがデジカメは
  芯赤く花弁黄なる小さき花川原に咲きて風にふかるる
  名も知らぬ小さき花咲く川原の草叢蔭に尿する吾は
  燕まで釣果を見むと飛びくるか川面すれすれにひるがへりたり
  濁流に浸りて乾く葦茅のはざまに咲ける萱草の花
  遠けれどほのぼのと見ゆ萱草の花は川原に咲きにけるかも