天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

神奈川県立地球博物館にて

 有鱗目ヘビ亜目に属する爬虫類の総称。変温性。卵生または卵胎生。温帯・熱帯に約2700種が分布。古名は、ながむし、くちなわ(朽縄)、かがち、へみ など。俳句では夏の季語。いにしえより、蛇は気味悪いもの・不吉なものと思われてきたので、和歌にはあまり詠まれていない。次にあげる江戸期・天明二〜文久二(1782-1862)に生きた熊谷直好の例が見つかった。彼は香川景樹の弟子で桂門歌人のひとり。

      蛇くふと聞けばおそろし雉の声    芭蕉
      蛇を追ふ鱒のおもひや春の水     蕪村
      全長のさだまりて蛇すすむなり    山口誓子
      蛇泳ぐあとのひかりのつづきけり   本宮哲郎

  日ざかりに夏野をくればいくたびかおどろく蛇の草隠れゆく
                        熊谷直好
  石亀の生める卵をくちなはが待ちわびながら呑むとこそ聞け
                        斉藤茂吉
  遠く行く妻を送りしかへりみち枯草なかの蛇に石打つ
                        川田 順
  おとろへて蛇のひものの骨をかむさみだれごろのわが
  貪着(どんぢやく)よ            坪野哲久
  おとうとが蛇の卵を包むためシャツ脱げり炎天の開拓農地
                        春日井建
  約束も言葉もいらぬ春の野のくちなはは無韻によぢれ合ひつつ
                        青井 史