天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

 蝉(1)

二宮町吾妻山にて

 半翅目セミ科に属する昆虫の総称。全世界には約2000種が生息するという。うち日本には三十数種。万葉集にも新古今集にもそれぞれ六首程度が詠まれている。


  晩蝉(ひぐらし)は時と鳴けども恋ふるにし
  手弱女(たわやめ)われは時わかず泣く
                    万葉集                   
  うつせみは数なき身なり山川の清けき見つつ道
  を尋ねな              (家持)
  うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良虞(いらご)
  の島の玉藻刈りをす         (麻続王)
  秋ちかきけしきの杜に鳴く蝉のなみだの露や下葉そむらむ
                   新古今集・藤原良経


 なお、「空蝉の」は 世、命、人、かれる身、むなし などにかかる枕詞になった。「現世の」を意味する。ここで考えるべきは、家持や麻続王の歌の「うつせみ」は、「現人」のことであり、「空蝉」は当て字であること。蝉の歌として数える場合、意識する要あり。


      ふためきて油蝉翔つ森の朝
      仰向けの蝉鳴く蟻のむらがりは
      蝉死して蟻を養ふ木立かな


  たちどまり聞かむとすれば蝉どもは次第に声をひそめけるかも
  声聞きていづこの蝉にとびゆかむ桜の肌にしづもる雌は    
  空蝉の背中のわれ目に闇あれば汗ふきあへず吾は近づく
  コスモスの花の味みてとぶ蝶のうつしみかなし山の頂き
  顔に手に拭けどもつきぬわが汗をのろひて下る吾妻山はや
  かなかなのかなの一声きこえたり地中の八年地上の十日 
  仰向けの蝉は手足を動かしてジイと鳴きたり蟻のむらがり