蝉(2)
日本にいる蝉は三十数種という。名前には、みんみん蝉、にいにい蝉、かなかな、つくつく法師のようにオノマトペから来ているものが多い。春蝉はまた松蝉ともいう。みんみん蝉は日本特産種。熊蝉は、日本のセミ類の中で最大のもので体長6.5センチ程度。空蝉は蝉の抜け殻。かなかなは蜩(ひぐらし)のこと。こうした各種の蝉を詠んだ歌をあげておこう。
しんしんとひとすぢ続く蝉の声産みたる後の薄明に聴こゆ
河野裕子
移り来ていくだもあらず春蝉は岬の松におとろへにけり
中村憲吉
古近江こもる霞のいづこにか今日松蝉のこゑ沈みゐる
加藤知多雄
油蝉いま鳴きにけり大かぜのなごりの著(し)るき百日紅
(さるすべり)の花 斉藤茂吉
いろ黒き蟻あつまりて落蝉を晩夏の庭に努力して運ぶ
宮 柊二
ややありて少し遠くに移り鳴く声は同じき一つカナカナ
小市巳世司
永らへてことしまた聴くひぐらしのこゑ澄むかたに
いざなはれゆく 上田三四二
二荒の山中ふかく空蝉は水楢のしろき幹にすがれり
森岡貞香
啼きそろう喬(たか)き熊蝉 彼らさえ戦後をともにせし
ものの裔(すえ) 岡井 隆
暑気払ひ 否、あざやかに決めたるは一本背負ひつくつく法師
永井陽子
法師蝉多くは鳴かず折ふしのこゑありありと秋風のなか
加藤知多雄
みんみんの「み」までを鳴いてなきやみし蝉がこの木の
てっぺんに居る 井川京子