天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

空蝉

横浜市舞岡公園にて

 「うつせみ」に当てる漢字には、空蝉、虚蝉、現身、現身人などがあり、意味としては、現世、この世、現世の人、せみのぬけがら など。


  うつせみは数なき身なり山川の清(さや)けき見つつ
  道を尋ねな           万葉集大伴家持


  空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびに濡るる
  袖かな                 源氏物語


  山高み世のひとごとも聞えぬに何を空蝉なきくらすらむ
                     宗良親王
  現身のはてなき旅の心にてセエヌに雨の降るを見たりし
                     斎藤茂吉
  夕鳥の幾群すぎてうつせみのものとしもなき風立ちにけり
                    山中智恵子
  天涯といふはいかなる涯(きりぎし)や空蝉の目に雨は
  ふりつつ               坂井修一


  てのひらに蝉のぬけがら ぬけがらを残して人は
  ただ一度死ぬ             永田和宏


 なお、「うつせみの」は枕詞で、世、代、命、妹、人、人目、身、かれる身、むなし、から、うつしこころ 等にかかる。万葉集に多くの例があるが、ここでは省略する。