天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

落鮎

落鮎釣(中津川)

 夏の間、川の上流で育った鮎は、九月、十月になると産卵のために川を下る。産卵期の鮎は、刃物の錆びたような斑点が体に現れる。よって錆鮎とか渋鮎という呼び名もある。
川の中流に下ってきて川底の小石に産卵する。産卵の終った雌も、それに協力した雄もやがて死んで川を流れてゆく。一方孵化した稚鮎は海に出て冬の寒さをしのぐ。そして櫻の咲く頃になると河口に集まり、夏にかけて川の上流をめざす。以上が鮎の一生である。『和名抄』には、「春生じ、夏長じ、秋衰え、冬死す、故に年魚と名づく」と出ている。


      鮎落ちてとがりそめたる鞍馬かな   岸風三楼
      落鮎の串抜きてなほ火の匂ひ     黒田杏子


  かの瀬々を鮎はひといきに落ちゆかむ冷えつつくだるこの夜
  の雨に                   木俣 修
  秋の鮎咽喉こゆるときうつしみのただ一ところあかるきはざま
                        塚本邦雄
  落鮎のその孕み子のゆたかなるくれなゐを食む炎に焼きて
                        馬場あき子
  仕残しの仕事を置きて旅に来つ落ち鮎の身を身に沁みて食う
                        佐佐木幸綱