天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

萱草

城ヶ島にて

 カンゾウの花は夏の季語だが、城ヶ島には、十月半ばでもところどころに咲いているのでとりあげる。ユリ科多年草で、藪にはえるのがヤブカンゾウ海岸にはえるのがハマカンゾウである。昼間だけ咲き一日でしぼむという。若葉は食用になる。古く中国から来た帰化植物らしい。中国では、この美しい花に憂いを忘れたところから、ワスレグサと呼んだ。なお、薬用植物に同音の甘草があるので間違えないように注意を要する。また意味が反対になる勿忘草(ワスレナグサ)と混同しないこと。こちらは春咲きの藍色の小花である。


      萱草は随分暑き花の色   荷兮
      萱草の夕花明り熊野川   森 澄雄
      萱草に立つ浪音や桂浜   高木晴子


  萱草よげに忘れ草うつくしき一日花のこの後なさよ
                   窪田空穂
  萱草を甘菜と呼ぶことのこりつつ食ふは疎開の吾等のみなり
                   土屋文明
  尾瀬ヶ原に吾は来しかば萱草の黄の連続が見えわたりけり
                   佐藤佐太郎
  萱草の彼方流るる夏の川見えぬ仏が矢のごとくゆく
                   安永蕗子

(注)荷兮(かけい): 江戸中期の俳人芭蕉の門人。
            名古屋の医師・山本周知の俳号。