天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

十国峠から富士を望む

 岬(みさき)を取り上げたので、峠(とうげ)も見ておこう。これもロマンを呼ぶ魅力的な言葉である。広辞苑によると、手向(タムケ)の転といい、通行者が道祖神に手向けをするところからきた。山の坂路を登りつめた所。山の上りから下りにかかる境。そして「峠」という字は国字、つまり日本で作られた和製漢字という。字面がよく峠の定義を表している。世界には歴史上有名な峠がいくつかある。例えばカイバル峠。この峠はアレクサンダーがインド侵攻の際に越えた。玄奘三蔵も越えたといわれる。わが国にも野麦峠碓氷峠山刀伐峠(なたぎりとうげ)などあり歌枕にもなっている。


  しづかなる峠をのぼり来しときに月のひかりは八谷(やたに)
  をてらす                斎藤茂吉
                      
  上り来て峠の茶屋に茶はのみつわがふる里の国みさくなり
                      土屋文明
  この父が鬼にかへらむ峠までらつきの坂を背負はれてゆけ
                      前登志夫
  飛ぶ雪の碓氷をすぎて昏みゆくいま紛れなき男のこころ
                      岡井 隆
  速達の檄文とどく夕べにて飛花しらじらと峠越えゆく
                      馬場あき子