天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ヤビツ峠

菜の花台からヤビツ峠を望む

 神奈川県下にも有名な峠がある。足柄峠ヤビツ峠である。足柄峠については、過去にこのブログで触れた(例えば、2007年6月3日 夕日の滝)ので、今回はヤビツ峠について。漢字で書けば「矢櫃峠」となるらしいが、普通はかたかなで表記されている。この峠は、秦野・蓑毛と清川・宮ケ瀬を結ぶ県道の海抜761mに位置する。
小田急線・秦野駅からバスで蓑毛まで行った。蓑毛バス停の先の電光掲示板に、「この先1kmのところに熊が出たので、注意」とあった。ともかくバス道に沿って歩いた。案内板を見て一時間もあれば着くだろうと安易に考えていたが、とんでもなかった。九十九折の道が延々と続く。退屈極まりない。菜の花台から更に歩いたが、空は曇り山並は靄でかすんでいる。無理する理由もないので、表丹沢林道入口を過ぎた地点で引き返した。


      熊出づるヤビツ峠の芒かな
      鳥兜花は浄土の空の色


  もし熊と出会はば投げむ自販機のペットボトルの水を買ひ足す
  矢印の山路たどらば近からしヤビツ峠にバス道をゆく
  峠路に白山菊は咲き出でて道ゆく人の無聊なぐさむ      
  見栄えよき鳥居くぐれば壇上に石の祠の浅間神社
  砲撃の音にも狎れて草を食むヤビツ峠の鹿のつがひは
  健康のためと思へど汗冷ゆる熊出でしとふ峠の道は
  競輪の練習として行き帰るヤビツ峠の九十九折道
  晴れたらば初島までも見ゆるらし菜の花台の望楼に立つ
  ゆくほどに靄たちこむる峠路は何も見えねば引き返したり
  さはがしくカケス啼くなる峠路の草むらかげに咲く鳥兜
  足腰の痛みに耐へて下りくれば蓑毛の里に靄は晴れたり
  バス待ちて丸太の株に腰おろす蓑毛の里のコスモスの花
  小田急線座席に秋の西日差し疲れたる身は眠りに落ちぬ