わが句集からー秋(5/11)
平成十三年 「静粛に」
うつむくも秋思許さぬぬかる道
百舌鳥猛る小学校の昼餉時
賑はしや社の屋根に木の実降る
静かなる足柄古道柿を捥ぐ
大杉に隠れて咲けり鳥兜
鎌倉ややぐらに垂るる蔦紅葉
川狭め鮭遡上せり山紅葉
ペンギンの泳ぐ背に散る紅葉かな
柿しぐれ柚子蒟蒻と禅寺丸
岩風呂の湯気吹き払ふ秋の風
秋立つや谷川岳をまなかひに
落柿舎の裏庭まもるししをどし
船底に横たはりたる残暑かな
卒塔婆の束抱へゆく残暑かな
土牢の闇動かざる残暑かな
目路果つるまでの浜波赤蜻蛉
石段を和尚と下りる
新宿や買い物籠に吾亦紅
鉄骨錆ぶ猪出没の旧街道
執権邸跡に乱るる萩の花
牧水の筆跡かなし酔芙蓉
稲刈の匂ひに噎せる佐原かな
秋風や田を焼く老婆に道を聞き
犬も馬も英霊として敗戦忌
田の畦に寝ねて出を待つ案山子かな
松に泣くつくつく法師古戦場
逆光に山黒ずめり芒原
釣舟が沖に連なる秋茜
チョッと擦る燐寸の炎路地の秋
酔芙蓉倉に隠せる歓喜天
手をかざすヤマトタケルや紅葉山
旭日旗秋日に黒き潜水艦
照明の塔あでやかに月の宴
城山にパラボラアンテナ鵙猛る
平成十四年 「からくり時計」
秋雨やからくり時計待てば鳴る
秋風の鼻黒稲荷大明神
妹の髪にコスモス姉が挿し
人形に別れ告げたり暮の秋
蟋蟀がぢつと見てゐるデスマスク
朝寒や母の手の甲頬に当つ
晩秋の茂吉に墓に詣でけり
断崖を木の実落ちくる男坂
酒折宮を巡ればひよの声
校庭に黄葉誇る大銀杏
じやがいもの花に親しむ土の色
鳥追ひの恋は哀しや風の盆
夕暮の風に秋立つ日なりけり
鯔飛んで飛んで腹打つ河口かな
しらかしの肌滑り落つ秋の蛇
林立の帆柱鳴らす初嵐
舌鳴らし水飲む犬や敗戦忌
秋彼岸遊行柳の道暮れて
突如鳴る秋の風鈴おそろしき
秋暑し振り子止まれる大時計
本堂の縁側に踏む秋日差
音たてて石橋渡る飛蝗かな
流燈の立ち去り難き中州かな
雲が飛ぶゆきあひの空秋茜
面伏せて向日葵枯るる相模小野
秋雨や水琴窟は鳴り止まず
酸漿や雨脚強くなるばかり
秋風や柱背にして胡座組む
秋雨にやさしくなりぬ時計草
うるはしき客を待つらむ金木犀
長雨やに貼りつく萩の花
秋風や買ふ人もなき恋みくじ
雁病みて犬飼星は瞬けり