天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

蝉の歌 ―かなかな―

近所の林にて

 半翅目セミ科の昆虫。ヒグラシともいう。端翅まで、雄48mm、雌45mm程度。雄の腹部は大きな空洞で共鳴室になる。成虫は6月下旬から8月に発生。北海道南端部から九州にかけて分布。日の出前と日没時、あるいは空が曇ると鳴く。



  午前四時過ぎたるときにあな寂し茅蜩
  (かなかな)のこゑはじめて聞こゆ   斉藤茂吉

                      
  ひえびえと朝霧こもる奥処にて銀鈴のひびき
  一つかなかな             坪野哲久
                      
  ややありて少し遠くに移り鳴く声は同じき
  一つカナカナ             小市巳世司
                      
  うちつけにこの世をひらく暁のかなかなのこゑ
  繊き虹いろ              藤井常世

                      
  水の裏よりかなかな鳴けるピアニシモ 夏逝くと
  きのうひとに告げにし         永田和宏
                      
  ひぐらしの一つが啼けば二つ啼き山みな声となりて
  明けゆく               四賀光子
                      
  ひぐらしのひた鳴くこゑも流し場に影たつ鍋も
  ゆふべに棲まふ            森岡貞香
                      
  永らへてことしまた聴くひぐらしのこゑ澄むかたに
  いざなはれゆく            上田三四二
                      
  終極のごとし狂ひたるひぐらしのこゑ一つ長き
  夕ばえの後              玉城 徹
                      
  わたくしはいつか蜩暗緑の小さき眼もてひとひ鳴きゐつ
                     山中智恵子
  生死のことたやすく言ふな確実に畢はり近づく
  ひぐらしのこゑ            蒔田さくら子
                      
  暁の闇はやさしも蜩は水の輪のごと声重ねゆく
                     尾崎左永子