天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

神奈川近代文学館

文学館前からベイブリッジを望む

 久しぶりにJR石川町駅に降りて、山手を歩いた。ブラフ18番館からエリスマン邸、港の見える丘公園神奈川近代文学館フランス山、元町通りへとたどった。神奈川近代文学館では、長谷川時雨の特集展示を開催中であった。
 長谷川時雨については、全く知らなかったが、日本初の女性歌舞伎作家という。創作劇「さくら吹雪」「江島生島」、評伝『美人伝』『近代美人伝』 などの執筆、雑誌「女人芸術」「輝ク」の編集と明治、大正、昭和の女性文化を牽引した文学者 と紹介してあった。今回、特に興味深かったのは、神奈川県ゆかりの小説家や詩人の原稿がまとめて展示してあったことである。


      朝影のエリスマン邸銀杏ちる
      山茶花の生垣に添ふ朝日影
      冬枯れの枝にとりつくコゲラかな


  冬枯れの桜の枝をとびうつり何をつひばむ朝のコゲラ
  原稿の修正箇所のハッチング執拗なるは夏目漱石
  端正なる文字のならびて訂正の箇所少なきは島崎藤村
  専用の原稿用紙の上に見る漱石山房の文字重々し
  漱石が書きし手紙の句稿には子規の朱書きの丸と添削
  原稿の桝目に太き文字ならぶ痩せて白髪の川端康成
  原稿の桝目に小さき文字ならぶ生きる不安を自死に消したり
  改めて書き直したる表題は『午後の曳航』創作ノート
  芥川、三島、川端それぞれの自死を思へり文字見比べて
  そのかみの外交官の家といふ山手の丘に聖夜を点す