天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

渋沢龍彦回顧展

ブラシの木

 しばらくご無沙汰していたので、横浜山手を訪ねた。地蔵坂、汐汲坂、代官坂、見尻坂、谷戸坂など山手通りから元町に下る坂を見つつ、港の見える丘公園に行った。いろいろな薔薇が咲いているが、どうも感心しない。種類ごとにしっかりまとまって咲いていないからであろう。神奈川近代文学館に向かうと6月8日まで、「澁澤龍彦回顧展―生誕80年」をやっている。600円を払って入った。ビデオの紹介では、旧知の高橋睦郎(詩人・歌人俳人)が澁澤龍彦の生き様を回顧していた。澁澤龍彦の生前の交友は、吉行淳之介、三嶋由紀夫、池田満寿夫塚本邦雄横尾忠則 など、所謂、悪徳と呼ばれる所行に芸術的関心をもつ人々であった。高橋睦郎の解説では、澁澤は明るい性格であったというが、展示の内容は不健康な雰囲気に満ちて、精神も肉体も腐ってくるような気分になった。


  ブラシの木濃きくれなゐの花咲けば蜜蜂きたり腹を満たすも
  末日聖徒イエスキリスト教会の窓にうかび来老嬢の顔        
  清楚なる白き小花を咲かせたり茨に似たる「涙のしづく」
  悪徳の極みを想ふ澁澤の文字こまやかにノートに並ぶ        
  見るものの心にありと小説の猥褻なるを断固否定す
  猥褻の心ためして飾りけむ絵も人形も陰あらはなる
  爪割れてバンドエイドを買ひにけり梅雨の晴間の元町通り


      紅茶のむエリスマン邸夏木立     
      薔薇かをる澁澤龍彦回顧展      
      赤き薔薇人差し指の爪割れて


[注]ブラシの木は、オーストラリアが原産地。ブラシ状をした鮮紅色
  または白い花房をつける耐寒性常緑小高木。房は雄シベの先に金粉
  が付いているように光る。花後に実をつけるが、山火事にあうまで
  木についたまま種子を出さず、山火事にあって木が死んだら実が割
  れて種子が飛び散ると言う。