麦の秋
音読みで「麦秋(ばくしう)」。麦を刈り入れる初夏の季節である。この場合の「秋」の意味は収穫の「収」であり、季節の「秋」ではない。
麦の秋さもなき雨にぬれにけり 久保田万太郎
麦秋の中なるが悲し聖廃墟 水原秋桜子
まなじりを濡らし馬ゆく麦の秋 宮田正和
山がつのはてにかりほす麦の穂のくだけて物をおもふころかな
曽禰好忠
夜半の風麦の穂だちに音信て蛍とぶべく野はなりにけり
香川景樹
熟麦のうれとほりたる色深し葉さへ茎さへうち染まりつつ
若山牧水
麦の穂の風にゆれたつ音きこゆ雀つばくら啼きしきるなかに
若山牧水
黄にさやぐ穂麦の生も沈黙の古墓石も一つ畑なか
宮 柊二
麦の穂の黄にかがやきてみのる野をさらばひ行けり口渇きつつ
岡野弘彦
青麦を大いなる歩で測りつつ他人の故郷売る男あり
寺山修司