天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

茂吉が詠んだ元使塚

藤沢市片瀬・常立寺にて

 たまたま小池光『茂吉を読む』をめくっていたら、茂吉が藤沢市片瀬の常立寺にある元使塚を詠んだ歌に出会った。次である。

  元の使者斬られて六百六十年の秋口にしてその墓洗ふ  『寒雲』

茂吉が墓を洗ったわけでなく、追悼祭の新聞記事を見てこの歌を作った。小池光の鑑賞を引用すると、盛大な追悼祭であったのに、歌からは一切こういう印象は消される。さびしく、あわれな故人と歴史をしのぶ思いに満たされる。ほとんどあざやかな「創作」といっていい。「秋口」の語は「斬る」と反応して「斬り口」の語をかすかに連想させるが、六百六十年の過去ながら「斬る」が生々しい。そういうところも見所であろう。
 この元使塚は何度も訪ねているが、茂吉の歌を見てまた行って見て来た。大正15年9月7日、時の住職磯野本精により建てられたものである。


     蝶が舞ふ誰姿森元使塚
     掃くほどに青梅落ちて元使塚
     残雪の川くだる見ゆ富士の峰
     
  南無日蓮大菩薩なる碑(いしぶみ)に一天四海皆歸妙法
  香炉には「誰姿森元使塚」青梅ちらす梅雨ふかみかも
  創業は大正二年の店が開くすばな通りの片瀬写真館
  見張り舟沖に浮かべる西浜の両隅に置くレスキューボード