天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

凍蝶と元使塚

藤沢の常立寺にて

 凍蝶(いてちょう)は冬まで生きながらえて、ほとんど動かない蝶のこと。俳句では「冬の蝶」の傍題。


     凍蝶や朝は縞なす伊豆の海   原田青児
     凍蝶のふと翅つかふ白昼夢   野澤節子


元使塚のある藤沢の常立寺で見かけた凍蝶が右の画像。その頃に詠んだわが作品を以下に。


     黄葉もせぬまま散りし公孫樹かな
     冬に入る誰姿森元使塚
     凍蝶が日に羽根ひろぐ元使塚
     菊の香やどつしり坐る茶筅
     土牢の崖を黄に染めつはの花
     海の出て波掻き立つる野分かな


  この国に降伏せよと来しゆゑに元の使ひは首落されき
  朝の日に白亜まぶしく輝けりストウーパといふ御仏舎利塔
  土牢の格子あたらし日蓮銅像納め菊供へたり
  改修は何年ぶりか龍口寺浄行菩薩に今朝も水掛く
  陰暦を太陽暦に替へしより季(とき)はずれたりこの国の歌
  新しき暦買はむと来し街に止むとも見えず不況の風は
  権限も権威も関係なかりけりわが家に坐る簡素なる椅子


[註]元使塚: 幅1メートル高さ2メートル以上はあろう供養塔と
   その前に五輪塔が五つ並んでいる。1275年、元の使者杜世忠ら
   5名が、無条件降伏を迫るフビライの国書を携えて来日したが、
   時の執権北条時宗は徹底抗戦を決意し、龍の口の刑場で処刑した。
   その5人の亡骸を葬った塚がこの五輪塔と伝えられる。