空蝉
ここでは、蝉のぬけがらの歌をとりあげるが、広辞苑によると、「現人(うつせみ)」に「空蝉(うつせみ)」の字を当てて、魂がぬけた虚脱状態の身をも意味するようになったのは平安時代以降らしい。
うつせみは数なき身なり山川の清けき見つつ道を尋ねな
万葉集・大伴家持
うつ蝉はからを見つつもなぐさめつ深草のやま煙だにたて
古今集・勝延
山高み世のひとごとも聞えぬに何を空蝉なきくらすらむ
宗良親王
銅(あかがね)の色を鎧ひて蝉の殻あれど脆しもろし わが
頼める平和 斎藤 史
二荒の山中ふかく空蝉は水楢のしろき幹にすがれり
森岡貞香
てのひらに蝉のぬけがら ぬけがらを残して人はただ一度死ぬ
永田和宏
暑き午後蝉の抜けがら二つありいのち存ふかなしみもある
大和類子
「空蝉の」あるいは「うつそみの」は、世、命、人、かれる身、むなし などにかかる枕詞になる。
うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良虞の島の玉藻刈りをす
万葉集・麻続王