天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

百日紅

大船フラワーセンターにて

 「ひゃくじつこう」あるいは「さるすべり」と読む。ミソハギ科の落葉高木。中国原産で古くわが国に渡来した。「さるなめり」とか「なめらき」と呼ばれた。花弁は6枚、円形で著しく縮れている。古典和歌にはほとんど詠まれていないようだ。次の夫木和歌抄(鎌倉時代)の例くらいか。盛んに詠まれるようになるのは、近代以降である。


  足引の山のかけぢのさるなめりすべらかにても世を
  わたらばや         夫木和歌抄・藤原為家


  さるすべりの老い立てる木にくれなゐの散りがたに咲く
  花を惜しみつ              斎藤茂吉


  我が盲(し)ふる安けきごとしうすうすに百日紅の咲くを
  待ちつつ                北原白秋


  さるすべり咲く残暑の日ばうばうと髪強(こは)ばりて
  午睡より覚む              板宮清治


  なおざりに見ざらんとすも日ざかりの百日紅はいのち
  しぼり咲く               山田あき


  さるすべり紅く咲きそむ寺の庭雨後のみどりは山に続きて
                      武川忠一
  逢うたびにおなじところがくずれゆく心地するなり
   はなさるすべり            江戸 雪


 その名の通り長期間、花をつけているが、十月に入るとさすがに見かけなくなった。晩夏の季語。


     街路樹のはかなき色や百日紅
     はるかまで信号赤し百日紅
     大鐘は撞くを能はず百日紅
     極楽寺庭を暗めて百日紅
     江ノ電の窓に触れたり百日紅