天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

桃の花

花桃(大磯にて)

 中国原産のバラ科の落葉果樹。三月から四月にかけて淡紅色の五弁花をつける。観賞用に花桃がある。弥生の節句に飾るところから、桃の節句という。


  春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ
  少女         万葉集大伴家持
                    
  三日月にくれなゐにほふ桃の花光もいとど
  まされとぞ思ふ   夫木和歌抄・大江匡房
                    
  桃の花下照る水のさざれ波ややねたましきこころのみだれ
                        古泉千樫
  峡のみち笛吹川を越えゆきて桃咲く時に吾は遇ひたり
                        扇畑忠雄
  桃の木は葉をけむらせて雨のなか共に見し日は花溢れゐき
                        大西民子
  鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ
                        小中英之


 近代短歌までは、家持の歌を本歌取りした作品が目立つようである。桃の花となれば、彼の歌の呪縛から逃れがたい。