天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

桔梗

鎌倉・海蔵寺にて

 キキョウ科の多年草で、日本全土、東アジアの山野に生える。花冠は青紫色から淡紫色だが、白花や二重咲きなどの園芸種も多い。「きちこう」とも読む。秋の七草の一つ。


     山中に一夜の宿り白桔梗      野澤節子
     桔梗よりなほ桔梗の花らしく    長谷川櫂


長谷川櫂の句は、「ききょう」と「きちこう」との音感の違いを詠んでいる。後者の方が、この花の呼び名にふさわしいと。この「きちこう」は古名だが、他に「おかととき」とも言った。


  あきちかう野はなりにけり白露の置ける草葉も色かはりゆく
                  古今集・紀 友則
  白埴(しらはに)の瓶に桔梗を活けしかば冴えたる秋は
  既にふふめり              長塚 節


  文章のいづくに果てむおとろへていよよ濃き桔梗(きちかう)
  に陽がさす               塚本邦雄


  立ちあがるものの気配や桔梗(きちかう)の藍とどこほる
  庭土のうへ               高嶋健一


  咲き終えし桔梗の花の茎を折り捨てんとすれば野の香
  を放つ                 俵 万智


  あさがほの名を返したる桔梗(きちかう)はせんねん一重
  むらさきの花              木畑紀子


注釈をしておこう。
  一首目: 初句は「秋近こう」に「きちかう」が掛けてある。
  六首目: 万葉集に五首詠まれている「あさがほ」は桔梗のこと
       とされる説を踏まえた歌。万葉集には、桔梗としては
       出ていない。