綿
「わた」はアオイ科の一年草。仲秋の頃に淡黄色の五弁花を開き、実を結んで熟すると白綿を出す。重陽の節句前日に菊に綿をかぶせて霜よけとし、菊の露と香のうつった綿で身をぬぐって長寿を祈った。以下の源忠房や馬 内侍の歌は、そうした風習を背景にしている。
しらぬひ筑紫の綿は身につけていまだは着ねど暖かに見ゆ
万葉集・沙弥満誓
伎倍人(きへひと)の斑(まだら)衾(ぶすま)に綿さはだ入り
なましもの妹が小床(をどこ)に 万葉集・東歌
幾へともいさ白菊をえこそ見ね綿きせながら手(た)折(おる)
朝(あした)は 源 忠房
菊のうへの露をばおきて涙こそわたの衣の袖もかはかぬ
馬 内侍
熱き風吹きゆく時に綿の花の黄のひと照りがひたすら眩し
木俣 修