天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

尾花

横浜市東俣野の田園にて

 ススキの花穂。けものの尾に似ているところからの命名。ススキは茅とも言うが、イネ科の多年草万葉集には、尾花、芒、茅で多くの歌が詠まれている。尾花では十八首ある。次によく知られた一首のみあげておく。


  高円の尾花吹き越す秋風に紐解き開けな直ならずとも
                   万葉集・大伴池主
「高円(たかまど)のススキを吹きすぎる秋風に衣の紐を解き放ってもらおう。直接紐を手でほどかなくとも。」なんとも艶めかしい。


  世の交はり遠くなりゆくはてにして今朝の尾花のまそほに匂ふ
                       土屋文明
  飛行士の足形つけてかがやける月へはろばろ尾花をささぐ
                       香川ヒサ


 土屋文明の歌に参考になるのは、「真赭(まそほ)の薄(すすき)」=穂が赤みを帯びた美しいススキ。最近の短歌では、尾花を詠うことはめっきり少なくなった。