天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

りんご

大船フラワーセンターにて

 バラ科の落葉高木。中央アジア原産。青林檎は夏に、赤林檎は秋にみのる。りんごを入れた詩で忘れ難いのは、島崎藤村若菜集』の「初恋」である。第一節だけ次に引用しよう。


     まだあげ初めし前髪の
     林檎のもとに見えしとき
     前にさしたる花櫛の
     花ある君と思ひけり


俳句では次の作品。敗戦直後、住む家を失った。


     空は太初の青さ妻より林檎受く  中村草田男


短歌では、北原白秋の次の歌がよく知られていよう。人妻との不倫が背景。


  君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香の
  ごとくふれ              北原白秋


  顔ぢゆうを口となしつつ雙手(もろて)して赤き林檎を噛
  めば悲しき              若山牧水


  ふかぶかと林檎樹林の花あかり夕べの頃はこころもしろし
                     斎藤 史
  ポケットに青きリンゴをしのばせて母待つと早春の駅に
  佇ちいつ               岸上大作


  青林檎かなしみ割ればにほひとなり暗き屋根まで一刻に
  充つ                 小野茂


  夜の卓に冷ゆる林檎よ実のなかに雪中行軍する人らゐて
                     栗木京子
  平安はいつまでのこと とつぜんに熟れすぎし林檎のにほひ
  せりけり             蒔田さくら子


  日の当る林檎おかれし卓あればなべて平安といふを憎みつ
                    尾崎左永子