天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

円覚寺境内にて

 広辞苑によれば、門には七つの意味がある。


  1.家の外構えに設けた出入り口 
  2.物事の出入・経由する所 
  3.師について教えを受けること、その仲間 
  4.物事の分類上の大別 
  5.家がら 
  6.生物分類上の一階級
  7.大砲を数える語


以下の歌はいずれも1の場合である。


  鉄かぶと門にかぶせし家がありわが神経はすでにいらだつ
                     柴生田稔
  放牧の牛堰く門をあけ放つここより三瓶山東ノ原開拓地
                    石川不二子
  門の扉は閉ざされてをり這入らむとするものにのみ閉されてをり
                     香川ヒサ
  金雀枝の花咲き門は黄を灯す生命ゆるされ帰り来し日を
                     前田 透

  崖したに合歓(ねむ)の一枝のしだれをり夜すがらの風に門は
  扁(ひら)たき             前登志夫


ちなみに夏目漱石の小説「門」は、彼が若い頃円覚寺に参禅した経験があることから、右上に示す円覚寺の山門に由来していると思われる。小説には、次のような一節がある。


  「山門を入ると、左右には大きな杉があって、高く空を
   遮(さえぎ)っているために、路が急に暗くなった。
   その陰気な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との
   区別を急に覚(さと)った。」