雁(2)
雁の古い異名に「かりがね」があるが、本来は「雁が音」であって、万葉集には、「今朝の朝明(あさけ)雁が音聞きつ春日山もみちにけらし吾心痛し」とある。これが後の古今集では、「うきことを思ひつらねてかりがねの鳴きこそ渡れ秋の夜な夜な」のように雁を指すことになった。
身を發ちし雁焚かれいる雪野暮れさびしきものは火の
なかに鳴る 佐竹彌生
ゆふまぐれ二階へ上る文色(あいろ)なきところを若(も)し
かして雁(かりがね)わたる 森岡貞香
ヌマタラウとこゑに出だしてよびやればヒシクイ雁自ら
の名を知る者を見め 森岡貞香
河上へ矢印なして雁(かり)は行く、帰らんために行く
も喜び 佐佐木幸綱
後より近づきしガンのひと群の頭上を過ぎてゆく時に鳴く
大悟法進
みんなみに下るかりがねの眼(まみ)みたす幾万のしろき
駒ケ岳 松川洋子
いのち落とし帰りえぬ雁のものなりし小枝を焚きて悼む
習はし 北沢郁子