天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雁(2)

BBC地球伝説から

 雁の古い異名に「かりがね」があるが、本来は「雁が音」であって、万葉集には、「今朝の朝明(あさけ)雁が音聞きつ春日山もみちにけらし吾心痛し」とある。これが後の古今集では、「うきことを思ひつらねてかりがねの鳴きこそ渡れ秋の夜な夜な」のように雁を指すことになった。


  身を發ちし雁焚かれいる雪野暮れさびしきものは火の
  なかに鳴る             佐竹彌生


  ゆふまぐれ二階へ上る文色(あいろ)なきところを若(も)し
  かして雁(かりがね)わたる      森岡貞香


  ヌマタラウとこゑに出だしてよびやればヒシクイ雁自ら
  の名を知る者を見め         森岡貞香


  河上へ矢印なして雁(かり)は行く、帰らんために行く
  も喜び              佐佐木幸綱


  後より近づきしガンのひと群の頭上を過ぎてゆく時に鳴く
                    大悟法進
  みんなみに下るかりがねの眼(まみ)みたす幾万のしろき
  駒ケ岳               松川洋子


  いのち落とし帰りえぬ雁のものなりし小枝を焚きて悼む
  習はし               北沢郁子