天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

 伊良湖崎を想う

鷹の渡り(webから借用)

 同窓会の夜は、知多半島先端の師崎の宿で過ごした。生憎の雨空で三河湾は霞んでいたが、晴れていれば、素晴らしい眺望が開ける。三島由紀夫の『潮騒』の舞台になった神島や日間賀島など、また富士山の頂上などまでが見える。
翌日、個人的な予定では師崎漁港から船を乗り継いで伊良湖崎へ渡ることにしていたのだが、天候がすぐれず中止してしまった。以前、鳥羽から船で伊良湖崎に渡り芭蕉の句碑や恋路ヶ浜を見たことがあり、再訪を期したのだが。
実は予定に合せて予め芭蕉の紀行文「笈の小文」を読んだ。芭蕉渥美半島を旅した。保美、吉田に寄った後、弟子の杜国、越人らと伊良湖崎まで歩いたようだ。鷹の渡りを見てよく知られる次の句を詠んだ。


     鷹一つ見付けてうれしいらご�啗     芭蕉


もちろん、西行の次の歌を思い起こしてのことであった。

  すたか渡るいらこが�啗をうたがひてなほきにかくる山帰りかな
                     西行山家集岩波文庫)』
なお、新潮日本古典集成山家集での表記は、次のようになっている。

  巣鷹わたる 伊良胡が崎を 疑ひて なほ木に帰る 山帰りかな

「きにかくる」か「木に帰る」か、いずれも難解である。

 今回の旅のわが作品を以下に。


     新酒酌む知多の半田の國盛
     利酒のひととき静か同期会
     しぐるるや沖にかすめる伊良湖
     寒雲の立ち去る気配伊良湖
     寒雲と海のはざまの朝日かな


  國盛大吟醸を試飲して同窓会の顔赤くなる
  山上にあかりひとつが点滅す沖にくろずむ神島の影
  寒雲の下にかすめる伊良湖芭蕉の句碑をはるけく思ふ


連句を次に。

     寒空の知多の旅から帰り来ぬ
     妻の差し出すボージョレ・ヌーボー


[参考]鷹の渡りについては、
  http://www.gunzosha.co.jp/eiga/sasiba/kaisetu/kaisetusasiba.htm
   などを参照のこと。
   10月上旬、東北・関東・中部地方など、おもに太平洋側で繁殖した
   サシバ(中型の鷹)たちがいくつもの群になって南下し、伊良湖
   に集結する。そこで上昇気流に乗って高く舞い上がり、伊勢湾を
   渡って、紀伊半島を目指す。