天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌枕―隅田川

芭蕉庵跡から隅田川をのぞむ

 隅田川は東京都の東部をながれて東京湾にそそぐ。古くは下総国武蔵国の当初の国境であった。その後、時代により河川工事で流れがいくつか変遷している。
伊勢物語』の在原業平の次の歌はあまりにも有名。
  名にしおはばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと

この歌から言問橋の名前の橋ができたという。


  むかしおもふ心ありてぞながめつる隅田河原のありあけの月
                   西行山家集
  舟わたすすみだ川原に降る雪の色にまがへる都鳥かな
                  源頼政頼政集』
  すみだ川今も流れはありながらまた都鳥あとだにもなし
                 藤原教長『教長集』
  すみだ河せぎりにむせぶみづのあわのあはれなにしに思ひ
  初めけむ          藤原盛方『新勅撰集』


  すみだ川舟よぶ声もうづもれて浮霧ふかし秋の夕浪
                     清水浜
  月細き隅田の川の夕間暮(ゆふまぐれ)待乳(まつち)を
  見れば昔偲ばゆ            正岡子規


  隅田川堤にたちて船待てば水上(みなかみ)遠く鳴くほととぎす
                     加藤千蔭
  隅田川なか洲をこゆる潮先にかすみ流れて春雨の降る
                     井上文雄
  墨田川の彼岸ににぶきものの音amor fatiと聞こえ来らむか
                     斎藤茂吉


  隅田川舟で渡りし西行もみやこ鳥見て泣きにけらしも
  隅田川小名木川との交はりを眺めて立てり芭蕉庵跡