天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

樅(もみ)(続1)

横浜市俣野別邸庭園にて

 2008年3月19日の続きである。わが国では、北は秋田県から南は屋久島の山地に生える常緑高木である。円柱形の球果は黄緑色え、熟すと中軸を残して飛散する。材は古くから卒塔婆や棺桶に使われた。


  日常の視界のかなた何ゆらぎつつあらん ひと群の
  樅そよげるを             三枝浩樹


  ゆうやみに救われているわがまえに母のごとうちそよぐ
  樅あり                三枝浩樹


  たとうれば雪野がなかの一本(もと)のモミの木のような
  香ぞのこりたり            荻本清子


  樅枯れて佇てり一木の歳月をここに据ゑたるその天の意志
                    尾崎左永子
  幻のごとくかがよふ冬の雲樅の木むらの上を過ぎゆく
                     扇畑忠雄
  丘にたつ一本ゆゑにひもすがら蝉こもらせて樅の木は啼く
                     志垣澄幸
  樅の木の灯の明滅をめぐりつつ人は踊れり窓の内側
                     大野誠